昨夕(10月31日) 帰途、カーラジオのスウィッチをオンに入れたら、馴染みのあの歌手の歌声が流れてきたではないか。尾崎 豊だ。
瞬間、ドキっとした。あの声が怖いのです。恐れていたのです。あの歌声が一旦私の鼓膜を揺るがしたならば、胸はキュンと締め付けられ、涙腺が緩み、脳の活動が停止し、視線が定まらなくなるのです。そのうち、うつむいてしまうのです。
「シェリー 」、そして
やっぱり、「15の夜」だった。
夕方の5時半頃、NHK・FM82.5
毎週水曜日は、営業のスッフの定休日なので、少し早く会社を出た。近所に住む長女が孫を連れて家に来ていることも、大きな理由だったのです。鰤(ぶり)大根の作り方を母親に教えてもらいに来たのよ、と言っていた。又、かえで(私の孫の名前です)と来ているので、早く帰ってきてと急かせられていたのです。
「シェリー」が終わり、まさに自宅の駐車場に着く直前に、「15の夜」が始まった。
糞!!
車を駐車場に入れた。エンジンのスウィッチが切れない、ラジオの電源は点いたまま。尾崎は歌い続けている。家人は私の帰宅に気がつかない。ライブでの収録盤で、歌声はかすれ、感極まっている聴衆の声が混じっている。尾崎が、必死に、聴衆に語りかけるように歌う。ライブ会場を感動の坩堝(るつぼ)化したような異様な雰囲気を伝えてくる。
私には、ラジオのスウィッチが切ることができない。
盗んだバイクで走り出す、行く先も解らないまま、暗い夜のとばりのなかへ~。冷たい風、冷えたからだ~。
う~ぅ、う。
躊躇いながらシートを倒して聞きふける。やっぱり、私はやられてしまった。彼に弱いのだ。車の中から窓越しに自宅のリビングを覗くと、孫が長女と遊んでいる。犬は二匹が寝そべり、もう一匹は食卓の下を駆け回っている。女房が夕食の準備をしている。食卓には、数種類の料理が並べられている。まだ歩けない孫が、皆の感心を集めているのだろう、駐車場の車の中の私ことには、誰も気付かない。室内は平和な家庭そのものだ。
尾崎は、愛したい、愛されたい、信じたい、確かめたい、と繰り返し歌っている。
私はといえば、一人、車の中。尾崎が胸を掻ききらんばかりに歌っている。私は、やっぱり泣かされた。涙が止まらない。シートに縛り付けられ、身動きできない。全身をシートに深く沈めて、泣いた。家族は、私の帰りを楽しみに待っていてくれる。でも、こんなに、涙ボロボロでは、自宅には入れない。
私は、尾崎に縛り付けられ、もう~離れられな~ああ~い。と尾崎の真似して口ずさんでみた。
一ヶ月に2度も尾崎の歌を浴びせられるとは。幸か不幸か。この機会に感謝したい。
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