以下の文章は、20101009(土)の朝日新聞の1,2,3面をダイジェスト、社説は全文を転載させてもらったものです。新聞記事そのままです。
10月7日の新聞には、ノーベル化学賞を根岸英一・米バデュー大特別教授(75)、鈴木章北海道名誉教授(80)、リチャード・ヘック・米デラウェア大名誉教授(79)に授与するという記事が大きく取り扱われていた。3人は金属のパラジウムを触媒として、炭素同士を効率よくつなげる画期的な合成法を編み出し、プラスチィックや医薬品といった様様な有機化合物の製造を可能にした、という功績だ。
日本の化学者の受賞の知らせの次にきたのが、劉暁波(リュウシアオボー)氏のノーベル平和賞受賞の知らせだった。民主化とか反権力との闘いとかに関しては、どういう訳か、私には力が入るのです。血が騒ぐのです。
劉氏の名前は候補者として以前から呼び声が高く、関係者の間では予想通りだったようだ。私は劉氏のことを、今回まで知らなかった。新聞の記事を読めば読むほど、これは大いに考えなければならない問題だと思った。私にできることは、せめて新聞記事からでも劉氏の現状をできるだけ深く理解したいと思った。
ノルウェーのノーベル賞委員会は8日、2010年のノーベル平和賞を、中国共産党による一党独裁の見直しや言論・宗教の自由などを求めた08憲章を起草した中国人人権活動家で作家・詩人の劉暁波(リュウシアオポー)氏(54)に授与すると発表した。「中国での基本的人権を求める非暴力の闘い」を評価した。中国外務省は8日夜、「(授与は)平和賞を汚すものさ」と激しく反発する談話を発表した。
中国在住の中国人がノーベル賞を受けるのは、自然科学系を含めて劉氏が初めて。劉氏は08憲章を起草したことで今年2月、「国家政権転覆扇動罪」で有罪となり、懲役11年の実刑判決を受けて服役中。今回の受賞決定は、経済大国として国際社会での存在感を増す中国に対し、民主化と人権改善を強く求めたものだ。国際社会に対しても、依然抑圧が続く中国の人権状況への監視を促す意味がある。
同委員会は授賞理由の中で「中国は世界第2位の経済大国になったが、その新しい地位には増大する責任が伴わなければならない」と指摘。劉氏について「20年以上にわたり、中国での基本的人権の適用を訴えるスポークスマンとなってきた」と評価し、国内にとどまって活動を続け、厳罰に処せられたことで、「中国での人権を求める幅広い闘いの最大の象徴になった」とした。
さらに、「中国の憲法には言論、報道、集会、デモなどの自由が定められているにもかかわらず、中国市民の自由は明らかに制限されている」と、人権活動家らの自由な表現活動を認めない中国政府の姿勢を批判した。
これに対し、中国外務省の馬朝旭報道局長は、「劉暁波は中国の法律を犯し、中国の司法機関が懲役刑を科した罪人である」と非難した上で、「同賞を与えることは、賞の趣旨に背き、これを汚すものだ」とする談話を発表した。また、「中国とノルウェーとの関係も損なわれることになる」とし、同委員会のあるノルウェーへの対抗措置を示唆した。
ノルウェーの外務省は8日、中国政府が抗議のためノルウェーの駐中国大使を呼び出したことを明らかにした。
ノルウェーでの報道によると、中国政府は劉氏ら反体制派に授与しないよう委員会側に事前に圧力をかけていたとされる。一方、受賞者発表の様子を生中継していた米CNNテレビが、中国各地で午後5時「日本時間6時」4分から12分まで中断。同時刻のNHKのニュース番組も放映できなかった。中国当局が神経をとがらせているための措置とみられる。
授賞式は12月10日にオスロである。
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米大統領 釈放を要求
オバマ米大統領は8日、劉暁波氏のノーベル平和賞受賞を歓迎する声明を発表し、劉氏を即時釈放するよう中国政府に求めた。中国の政治改革の遅れにも言及し、「すべての男女、子どもの基本的人権が尊重されなければならない」と強調した。
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「中国人権闘争の象徴」 授賞理由
ノーベル賞委員会は2010年のノーベル賞を、中国の基本的人権のために長く、非暴力で活動してきた劉暁波氏に授与すると決めた。ノーベル賞委員会は基本的人権と平和の間に密接な関係があると長く信じてきた。基本的人権は、アルフレッド・ノーベルが彼の遺言に書いた「国家間の友愛」に必須のものである。
過去数十年にわたって、中国は歴史がほとんど同じような例を示すことができない経済的進歩を達成した。中国は今や世界2位の経済大国だ。何億もの人びとが貧困から引き上げられた。政治に参加できる範囲も同じく広がった。
中国の新しい地位は、増加した責任を含むものでなければならない。中国は、政治的権利に関する中国自身の法規と同様に、自ら署名したいくつかの国際協定にも違反している。中国の憲法第35条は「中国人民共和国の公民は、言論、出版、集会、結社、行進及び示威の自由を有する」と定めている。だが、実際は、これらの自由は明らかに制限されていると証明されてきた。
20年以上の間、劉氏は中国でも基本的人権を採り入れようと権力に提唱してきた。彼は1989年に天安門での抗議に参加。2008年12月10日、国連の世界人権宣言60周年を記念して発行された、中国の人権に関する宣言書「08憲章」の主な起草者でもある。翌年、劉氏は「国家権力の転覆を促した」として、懲役11年と2年間の政治的権利剥奪の判決を受けた。劉氏はその判決が中国の憲法と基本的人権の両方に違反するものだと一貫して主張してきた。
中国でも普遍的人権を確立するという政治活動は、中国国内と国外の両方で多くの中国人により営まれている。厳罰を与えられたがゆえに、劉氏は、中国での人権を求める幅広い闘争の抜きんでた象徴になっている。
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(劉夫婦)
「08憲章」の要約
一、前置き
執政集団が権威主義支配を続け、政治の変革を拒むことで、官僚の腐敗や道徳の喪失、社会の二極分化を招き、社会の矛盾と不満が高まり、現体制の立ち遅れは改めなければならない段階に至った。
二、我々の基本理念
自由、人権、平等、共和、民主、憲政
中国では皇帝の時代は過ぎ去った。公民が真の国家の主人公になるべきだ。臣民意識を払いのけよう。
三、我々の基本的主張
①憲法の改正②分権による牽制③立法による民主④司法の独立⑤公器の公用⑥人権の保障⑦公職の選挙⑧都市と農村の平等⑨結社の自由⑩集会の自由⑪言論の自由⑫宗教の自由⑬公民教育⑭財産の保護⑮財政・税制改革⑯社会保障⑰環境保護⑱連邦共和⑲正義の回復
四、結語
中国は大国として、人類の平和と人権の進歩に貢献すべきである。一日も早く自由、民主、憲政の国家をつくり、わが国の先人が求め続けた夢を実現しよう。
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「沈黙したら人権の基準下げる」
ノーベル賞委 決断貫く
「中国は大国として基本的な人権を守る責任がある。目をそらしてはいけない」。オスロのノーベル研究所で8日開かれた発表会見で、ノーベル賞委員会のヤーグラン委員長はそう説いた。
委員会メンバーは元首相のヤーグラン氏ら、ノルウエー国会が選んだ超党派の5人。選考過程は50年間経たないと公開されないが、今年の決定が一筋縄でいかない性質のものだったことは確かだ。
同委員会のルンデスタッド事務局長はこの夏、中国の外務次官から「反体制派への授与は非友好的行為とみなされ中国・ノルウェー関係に影響を及ぼす」と警告されたことを明らかにしていた。
しかしヤーグラン氏は朝日新聞に「劉氏は人権改善を長年求めてきた最も重要な活動家。彼に賞を出さないわけにはいかない」と強調した。
平和賞選考に対する圧力は「毎年のようにあること」と一蹴。委員会が超大国としての米国の役割を折りに触れて批判してきたことも挙げ「我々には大国になった中国を批評し、どうあるべきか問う権利がある」と断じた。
人権活動家らを支援する「後押し型」の平和賞は今回が初めてではない。チベット仏教の指導者ダライ・ラマ14世(89年)や、ミャンマー(ビルマ)の民主化指導者アウン・サン・スー・チーさん(91年)がその典型例だ。
中国の人権活動家も長年有力と目されながら、受賞が見送られてきた。最適なタイミングを待った結果、今年になった可能性もある。
ただ、中国の対応にどう影響するかは未知数だ。ダライ・ラマの受賞後も中国はチベット問題で強硬姿勢を変えていない。平和賞は「単なる声明に過ぎない」(オスロ国際平和研究所のトネソン前所長)との指摘も聞かれる。
ノルウェーと中国は現在、自由貿易協定(FTA)の交渉中で、授賞式のある12月は9回目の二国間会合がある。「委員会は完全にノルウェー政府や議会から独立した存在」(ヤーグラン氏)のはずだが、中国が厳しい対応をとる可能性もある。
それでも、ヤーグラン氏は強調した。「もし我々が皆、経済など自己の利害から沈黙してしまえば、国際社会に受け入れられてきた(人権)の基準を下げてしまう」
平和賞授賞式の12月10日は48年に世界人権宣言が採択された世界人権デーだ。劉氏らの「08憲章」も60年後の08年、この日付で出された。その12月10日の式に、獄中の劉氏も家族も出られない可能性を問われたヤーグラン氏は、皮肉を込めて答えた。「素晴らしい式典になるだろう」。
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社説
平和賞・中国は背を向けるな
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驚異的な経済発展とは裏腹に、民主主義や人権を大切にしてこなかった中国の指導者に、痛烈なメッセージが突きつけられた。
中国の民主活動家で作家の劉暁波氏に、ノーベル平和賞が授与されることになった。1989年の天安門民主化運動にかかわり、それ以来暴力など過激な手段を使わず、言論活動一筋に民主化を求めてきた人物だ。
ノルウェーのノーベル賞委員会は、こうした活動を高く評価した。
北京五輪のあった2008年暮れ、劉氏は共産党独裁の廃止など根本的な民主化を訴える「08憲章」を起草した。そのことと党や指導者に対する批判が、「国家政権転覆扇動罪」に問われて懲役11年の判決を受けた。今は東北部の遼南省で獄中にある。
劉氏が平和賞の知らせを聞くことができたかは定かでない。少なからぬ国民も、当局による報道規制のために知らずにいるかもしれない。しかし、早晩、授賞の知らせは中国で広がり、劉氏らとともに民主化につとめてきた人びとへの大きな励ましになるだろう。
ノーベル賞委員会によれば、中国当局は「反体制派への授与は非友好的な行為とみなされる」と警告していたという。だとすれば、急成長する経済や軍事力の増強による「大国意識」を背景にした強権的な一面が、ここでも表れたといえる。
しかし委員会は中国側の圧力に屈しなかった。高く評価したい。
中国当局は、政治的信条の平和的な表現を認める、自らも署名した国際規約に反し、言論の自由などをうたった中国憲法にも反している。委員会はそう厳しく批判し、中国の責任の大きさを指摘した。
尖閣諸島沖の衝突事件や南シナ海での行動は、中国がルールに従わない国という警戒感を国際社会に与えた。
経済の相互依存が強まるなかで、国際社会は中国による普遍的価値の侵害に目をつぶりがちだった。人権問題を重視してきた欧米諸国も、最近は中国との関係維持を優先させていた。先のアジア欧州会議(ASEM)首脳会合でも厳しい注文はつけなかった。
そうした風潮の中でのンーベル賞委員会の決定は、とりわけ先進国への警鐘として重く受け止めた。
中国外務省は「劉暁波は中国の法律を犯しており、その行為は平和賞の趣旨に背いている」と批判し、ノルウェーとの関係悪化も示唆した。民主活動家らへの国内での締め付けが厳しくなることも心配だ。
内外での強硬な姿勢をとることは、長い目で見て中国の利益にならないだろう。経済発展を続けても、普遍的な価値を大切にしなければ真の大国として認められないことに、中国当局は早く気づかねばならない。