朝日賞は、学術、芸術の分野で傑出した業績をあげ、日本の文化や社会の発展、向上に貢献した、個人・団体に贈られる賞です。朝日文化財団が受賞事業を行っている。この賞を受賞された方々は他にも何人かいらっしゃるのだが、私はこの今の段階で、どうしても確認して、山中伸弥さんの業績を書き留めて置きたいと思った。この研究がドンドン進んで、医療の分野において多大な貢献が予想されるからです。昨年の科学における研究成果のなかで、私のような極非科学的人間でも、なんだか、これは大変なことの始まりのような胸騒ぎがしていたのです。
この記事を転載しているうちに、8日の朝刊では、理化学研究所が万能細胞を希望する研究者に提供・分配することの報道があり、9日には京都大と経産省がタッグを組んで万能細胞の解析手法を共同で研究することの発表があった。その記事も転載した。
朝日朝刊 2008 1月1日(元旦)より
万能細胞 丹念な研究結実
幹細胞生物学者 山中伸弥さん(45)
皮膚や肝臓、胃など、いったん組織の細胞に分化した体細胞は、もうそれ以上分化しないと考えられてきた。そんな発生生物学の常識を覆したのが、人工多能性幹細胞(IPS細胞)と名付けた万能細胞だ。
マウスとヒトの体細胞に、もともと細胞内にある四つの遺伝子を細胞内で過剰に発現させると、未分化な状態に戻り(初期化)、万能細胞ができることを実証した。これまで万能細胞の代表格だった胚性幹細胞(ES細胞)と違って受精卵を壊さなくてもすむ。
京都大の研究で、ES細胞と体細胞を融合させればESに似た細胞ができることが分かった。体細胞にも可能性があると感じた。「すでに研究が進んでいる分野より、体細胞の初期化実現で勝負しようと思った」
初期化の因子は何なのか。まず、ES細胞の多能性を維持する因子と同じだろうと推測して、コンピューターでゲノム解析から始めた。
関連していると思われる遺伝子は、データベース上だけでも、1万以上。この遺伝子をパソコン上で並び替えたり、複数組み合わせたりして、初期化や多能性を誘導していると思われる遺伝子を集めた。4年がかりで、やっと24に絞った。
最初に絞り込んだこの24の候補の遺伝子に、初期化にとって重要な因子が含まれていた。「幸運だった」と山中さん。
これ以降は早かった。学生が以前に開発した特定の遺伝子の機能を失わせたノックアウトマウスを使い、細胞に導入する遺伝子の数を一つずつ減らしながら機能を調べ、数ヶ月で四つの因子を絞り込むことができた。一つずつではなく四つ同時に発現させると、うまく機能することが分かった。
「こんなに簡単に作製できるとは」と感じたという。当時、韓国のヒトクローン胚の捏造が明らかになったころだった。念には念を入れ、複数の検証実験をし、論文発表まで緘口令も敷いた。
昨年12月には、導入する遺伝子の数を三つに減らすことにも成功した。研究チームで対照実験中に見つかったが、最初は実現できなかった。わずかに薬剤を使うタイミングが違うためだった。
延べ50人以上の積み重ねで、こうした成果を築き上げた。大好きなスポーツにたとえ、「この研究は駅伝のようなもの。今回の受賞は監督賞」と学生の健闘をたたえる。
今回の成果は、受精卵を使うなどの倫理的な問題を回避するっことができ、将来的な再生医療への応用に期待がかかる。だが、「過剰な期待も、過剰な失望もしていない」と山中さん。将来、iPS細胞が再生医療で役立つために、「僕のような基礎医学の研究者から、臨床に近い分野の研究者まで、幅広い連携が必要」と訴えた。
2008 1月8日 朝日朝刊
万能細胞分配へ 理研センター
理化学研究所バイオリソースセンター(茨城県つくば市)は、マウスの体細胞から作製した万能細胞(iPS細胞)を希望する研究者に提供・分配する事業を3月中にも始める。ヒトのiPS細胞についても08年度以降の配布を目指す。
iPS細胞については、開発者の山中伸弥・京都大学教授の研究室を中心とするコンソーシアム(研究共同体)を年度内に立ち上げ、細胞を原則無償提供する方向で調整が進んでいる。コンソーシアム以外の研究者にも、契約に基づいて提供する方針だ。同センターは京大の依頼を受けており、コンソーシアム内外への提供の「交通整理役」といった形になる見通し。
同センターはiPS細胞を増やすとともに、細菌感染などの汚染がないかチェックする。細胞は1本に100万個が入った容器で配られる。提供を受けた細胞を使った研究成果は、京大との共同研究という形になる。
2008 1月9日 朝日朝刊
万能細胞の鍵 解析へタッグ 京大と経産省
候補遺伝子探し 高速化
京都大が開発した万能細胞(iPS細胞)研究を支援するため、経済産業省はiPS細胞作製や臓器の元になる細胞への分化に必要な遺伝子を効率的に見つけ出すため、データベースなどを京大に提供し、解析手法を共同で開発する方針を決めた。米国などの追い上げが激しく、日本が主導的な立場を維持するために研究の加速が急務とされている。
10日に開かれる総合科学技術会議の作業部会で報告する。経産省所管の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や産業技術総合研究所、生物情報解析研究センターなどが、これまでの研究関連の成果を提供し、京都大と共同開発する計画だ。
京都大の山中伸弥教授らは、人の皮膚細胞に四つの遺伝子を組み込んでiPS細胞の作製に成功した。ただ、人間の遺伝子は約2万2千あるとされ、山中教授の場合は無数の組み合わせから24の遺伝子を選び出すまでに4年、さらに実際に成功した四つの遺伝子の組み合わせを見つけるまでに数ヶ月かかった。
新たな解析手法やデータベースを使うことで、万能細胞の作製や、様々な臓器などへの細胞の分化に使える可能性が高い遺伝子の組み合わせを、短時間で大量に検証することができるようになる。
また、iPS細胞作製の際、がん化の危険を避けるため遺伝子の代わりに使う化合物の探索などにも蓄積した研究成果を提供する。
万能細胞をより高い効率で安全に作製するための新たな候補遺伝子探しは、すでに米国では10を超える研究機関で始まっているとも言われる。
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