(優勝した瞬間)
(原辰徳監督)
(成田空港)
野球の第2回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の決勝戦が3月23日(日本時間24日)、米・ロサンゼルスのドジャースタジアムであり、日本がライバルの韓国を、延長10回の接戦の末、5-3で競り勝った。1次ラウンドから通じて日本は全9試合を戦い、7勝2敗。2次ラウンドでキューバに2試合連続零封勝ち。準決勝では米国に9-4で完勝した。日本は連覇したことになる。
このワールド・ベースボール・クラシックという大会は変な大会だ。現状のままならば、大会名が大仰過ぎだ。ベースボールの前にはワールドと、後にはクラシックとくる。よっぽどアメリカ人はワールドという言葉がお好きなようだ。毎年、ナショナルリーグとアメリカンリーグの優勝チーム同士が戦ってその年度の全米一を争うのをワールドシリーズと言う。なんで、全米一争いがワールドなんじゃ、と不思議だけれども、アメリカ人の意識では世界の覇者争いの心算なのだろう。
それにしても、ワールドという冠名がついている大会にしては、運営において理解に苦しむことばかりだ。主催国でありながら、野球の本場のアメリカのメジャーが本気で参加していない。そのあおりか、松井秀喜はメジャーの開幕までの調整のため、という理由で参加しませんと意思表示した。昨シーズンは左ひざを手術して、リハビリに掛けた期間が長かったので、今回は参加しなかったのは止むを得ないにしても、第1回目のときには、出場の「しゅ」の字も頭にはなかったのではないか。それ程、アメリカのメジャーの球団はこの大会を「耐えられないほどの軽視」ぶりだ。開催時期が、メジャーの開幕を控えての調整期間であるため、怪我を心配する選手は参加を辞退する。骨抜きにされたアメリカチームでは、チーム自体も盛り上がらないし、主催国アメリカの野球ファンも嬉しくない。
サッカーは、国際サッカー連盟(FIFA)が世界選手権サッカー大会(ワールドカップ=FIFAの商標登録です)を主催するのです。サッカーは世界で競技人口が一番多く、予選に費やす時間は1~2年かけて行う。どの国にも公平にチャンスが与えられている。地域別での出場国数に、多少の問題はあるが、公平性に腐心している。サッカーの宗主国も、新興国も、小国も、大国も、後進国も、この本大会に出場した名誉は、タダモノではない。まして優勝トロフィーを得た国は、この上ない栄誉を獲得したことになる。そして世界の全ての人からその栄誉を讃えられるのです。これこそ、真のワールドカップだと私は思っている。
WBCはメジャーベースボール(MLB)とMLB選手会が主催している。国際野球連盟は蚊帳の外、参加していない。なんで、MLBとMLB選手会なんだ。自分たちはプレーに参加しないで、あぶく銭を稼ごうってことか。賭博場の胴元みたいだ。他人(ひと)の褌で相撲を取る方式か。この私の考えは、どれも良くないですか? 予選も行わずにいきなりの本大会。野球が国民に認知されていないイタリアや中国、台湾、南アフリカ、パナマなどが、根拠なく招待されるのです。
利益の分配が臭いぞ。大会収益の47%が賞金に、53%が各組織に分配されるというが、各組織とは何だ。
こんなWBCだけれど、名目上と言えども世界一がかかっているとなると、真面目な日本と韓国は燃える。日本は、北京オリンピックでは韓国に苦杯をなめさせられた。第1回大会では韓国を倒して、日本が世界チャンピオンになった。何につけても、韓国と日本は因縁のある国同士。熱くなる韓国。負けずとばかりに、ヒートする日本。韓国のあるスポーツ新聞の編集長さんは、決勝戦では痒(かゆ)いところまで知り尽くした日本とは戦いたくないと言っていたが、その通りになってしまった。日本列島は加熱気味、家電量販店のテレビの前は、ワアーっとかオウーっとか歓声が起こった。駅のホームで電車を待つ人や歩道を行き交う人の多くが、ワンセグ機能付きの携帯電話の画面に見入った。テレビの視聴率も記録的に上がった。私も仕事で、お客さんのお宅にお邪魔したときも、誰もテレビのスイッチを切ろうとしない。商談に入れないまま、テレビ観戦になってしまった。隣の家からも日本の活躍に歓声が漏れてきた。通り過ぎる車からも、実況放送が漏れ聞こえる。
最終的には日本が、1次ラウンド、2次ラウンドを通じて決勝戦までに韓国とは4度戦う羽目になり、決勝戦は5度目で、日本は韓国に勝って連覇を果たした。全試合数は9だったけれど、そのうち韓国とは3勝2敗だった。これも異例だ。
日本の勝因は、投手力に尽きる。9試合のチーム防御率は1.71、4強に入った韓国(3.00)、ベネズエラ(4.13)、米国(5.99)と比べても群を抜いている。原監督と山田投手コーチの考えは徹底いていた。先発は3本柱の松坂、ダルビッシュ、岩隈に任せ、中継ぎは調子の良かった杉内を起用した。藤川が不安定と見るや、最後はダルビッシュを抑えに回した。防御率は岩隈が1.35、ダルビッシュが2.08、松坂は2.45だった。杉内は5試合に投げ、1本の安打も許さなかった。
投手が安定していたことが最大の勝因だったことは、先に述べたが、野手もよく守りよく打った。
(ダルビッシュ、岩隈)
(内川)
決勝戦に出場した選手だけに限って、その名前だけを記しておこう。横浜の村田は韓国との2次ラウンドの1位決定戦で負傷、途中帰国した。急遽日本から呼び出されたのは、広島の栗原だった。
大リーガーの城島、岩村は流石(さすが)だった。 中島、青木、小笠原、内川、稲葉、川崎、素晴らしかった。イチローは決勝戦の決勝打を放ち、最後の最後で意地を見せてくれたが、それ以外のどの試合も不振だった。でも原監督は、1番イチローにこだわった。イチローはどうしても打てない心境を、心が折れそうだ、と表現した。
(右) イチロー(マリナーズ)/(遊) 中島 (西武)/(中) 青木 (ヤクルト)
(捕) 城島 (マリナーズ)/(一)小笠原 (巨人)/(左) 内川 (横浜)
(指) 栗原 (広島)/打指 稲葉 (日本ハム)/(二)岩村 (レイズ)
(三)片岡 (西武)/打 川崎 (ソフトバンク)
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歴史(回)を重ねて、きっとこの大会が名前に恥じない立派なものに育っていくことを念じる。文字通り、ワールド・ベースボール・クラシックとして。
(試合の内容については、朝日新聞の20090325前後の記事を利用させていただいた。)
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20090325
朝日朝刊
大会育てる重責 日本にも
松元章
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アジア勢同士の優勝争い。チームとしての仕上がり具合や取り組み、さらにファンの盛り上がり。すべて日韓が群を抜いていた。やや複雑な思いがある。
米国との準決勝前日、米国人記者が原監督に聞いた。「ボストンのファンは、ダイスケがなぜこの試合に一生懸命なのか、理解できない」
2月5日、イチローと神戸市内で自主トレした松坂が、打撃投手を買って出た。米スポーツ専門局ESPNの関係者は「2月のはじめの段階で、お互い準備できていたのは驚き」と目を丸くした。
米国ではWBCをオープン戦の一つ、と考えている人がまだ多い。米国代表は大リーグ球団の意向に従い、起用法も制限されている。それが、野球の世界一決定戦を開くホスト国の現状だ。
米国は出場辞退が多数出たうえ、故障者も続出した。大リーグのオーナーは3月開催に対する批判を強めている。第3回以降、ますます大リーガーがこの大会を敬遠するのではという懸念がある。
改善すべき点は山積みだが、大会運営がメジャー主導である限り、解決は難しい。
日本の加藤コミッショナーは「今は招待されている立場だが、将来的には日本も資金を出し、共催の形も考えないといけない」と語る。
W杯サッカーも、創成期は様々な問題を抱えていたという。後世の野球ファンが、胸を張って「WBCの第1,2回王者は日本」と言える大会に育てるため、日本野球界の役割はより重く、大きくなった。
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20090326
朝日朝刊
社説
WBC アジア野球の新しい風
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イチローの決勝打の残像は、多くの人の目にまだ焼き付いているいるだろう。国・地域別対抗戦ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は、延長にもつれた韓国との激戦の末、日本が第1回大会に続く王座についた。
「Behind every play,a nattion (一つひとつのプレーの背後には、国がある)」
野球を生んだ米国だけに、なるほどとうならされるキャッチコピーだ。
今大会を特徴づけるのはアジア野球の台頭だ。3年前の第1回大会でも日本が優勝、韓国は4強入りしたが、米国の報道の焦点は、もっぱら米代表のふがいなさにあてられていた。
今回は違う。日本や韓国の練習に、大リーグのスカウトやコメンテーターといった専門化が群がった。
「走者を進めるための打撃の練習に時間を割いている。恵まれた体にものをいわせて遠くへ飛ばすことしか考えていない米国選手と違って新鮮だ」「併殺を試みる内野手の位置どりが素晴らしい。練習そのものが芸術的だ」
前回と同様に有力選手の辞退はあったが、米国は大会前の強化試合を増やし、勝敗優先の選手起用を貫いた。それでも勝てない米代表への不満の裏返しであるといえ、一見非力な日本や韓国のしたたかな強さに注目せざるを得なかったということだろう。
強者や高額所得者が常に勝つわけではないと、野球で人生や社会を語ろうとしているようにも見えた。あるいは日本や韓国の自動車にしてやられたビッグ3の像を重ね合わせ、、経済危機からの脱出にあえぐ米国の姿をそこに見るのは深読みのしすぎだろうか。
日本選手の言葉をたどると、優勝の別の側面も見えてくる。
第1回大会に続いて最優秀選手となった松坂大輔投手は言った。「前回とは全く違う。今回は王者としてもう一度勝ちにいったのだから」。自らとチームが感じた重圧を語る言葉に、選手の意識の高さが映されている。
4番打者をはじめ、相手投手に合わせて次々に選手は入れ替わった。選手はいつ、どう使われるか常に考えざるをえない。戦術の新しさが感じられた。この采配も、選手の意識と技量の水準に支えられてこそだろう。
機動力を生かしたきめ細かい野球の日本。スピードと積極性で相手を狂わせていった韓国。5度の勝負を競い合った両国のプレーには、応援していた国民の性格と通じるものがある。
優勝候補の一角ドミニカ共和国を、マイナーリーグ程度の選手ばかりで倒したオランダの団結も鮮烈だった。世界の勢力図の変動は急だ。
次回は、米国ももっと本気でかかってくるだろう。本家と新興勢力の全力のぶつかり合いが、野球の魅力と可能性をさらに広げてくれるに違いない。
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