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(080824)
朝日朝刊
① 偶然の贈りもの
論説委員・辻篤子
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月より400倍大きい太陽が、ちょうど400倍遠くにある。
月が太陽を完全に隠す皆既日食が見られるのは、この配置の妙のおかげだ。こんな偶然がよくあったものだと、東京・北の丸公園の科学技術館に今週完成した「シンラドーム」の立体映画を見ながら改めて思った。
このドームは、宇宙から細胞の内部まで、最新の研究成果を3次元画像にして見せてくれる。その一つ、国立天文台が作成した画像は、ある天体が地球に衝突し、飛び散った破片が集まって月ができるまでを描いている。月は、ほんの偶然の産物であることがよくわかる。
自然が私たち地球人に「黒い太陽」を見せる粋な計らいをしてくれたのか。中国西域のゴビ砂漠まではるばる出かけて見た今月1日の皆既日食が脳裏に浮かんだ。真珠色のコロナと、プロミネンスと呼ばれる紅色の炎に縁(ふち)取られた黒い太陽は、同行した日食観測歴20回近いベテランもうなる美しさだった。
もっとも、この幸運も永遠には続かない。月は毎年3センチほど、地球から遠ざかっているからだ。いずれ皆既日食は見られなくなる。せめてそれまでは、自然の贈りものを、たっぷり楽しみたい。
幸い、来年7月22日にはトカラ列島など南の島々で見られる。
その後もほぼ3年に2回、地球のどこかで起きる。遠くまで旅するのが面倒という方は、関東地方などで見られる2035年まで長生きを。
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(080820)
朝日朝刊
②離島の決断/物価高でも、自然守る新税
今村尚徳
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沖縄の離島、伊平屋村で7月、「環境協力税」の徴収が始まった。沖縄本島からなら2380円のフェリー代に100円上乗せし税収を島の環境保全に使う。観光客だけではなく村民も負担する。
隣の離島、伊是名村も05年に同様の税を導入しており、伊平屋村は全国で2例目。村によると7月の税収は22万4600円だった。
同じ7月、増田総務相の視察に同行し、沖縄の石垣市を訪れた。住民との会合で、石垣島への渡航費が往復3千円を超すという西表島の女性は「子供を通院させるのは負担が重く、軽い風邪でも入院せざるを得ない」と訴えた。
原油高で渡航費が上がり、離島の暮らしは厳しさを増す。伊平屋村も、100円の負担でさえ重く感じるはずだ。それでも村は、サンゴ礁に囲まれた島の自然を守ろうと、新税導入の道を選んだ。
地方の交通手段の確保は当然必要だ。一方で、便利さだけではなく、歴史や文化、自然を大切にしなければ地域の豊かさは生まれない。負担を受け入れた離島の決断を、都市に住む一人として重く受け止めたい。
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(080827)
朝日朝刊
③ワンバウンドが駄目なら/MLB
イチロー怒りのストライク返球
シアトル=山田佳毅
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「あれって僕のエラーなんですか。解せないですね」。味方の劇的なサヨナアラ本塁打で延長戦を制した後も、イチローは不服そうだった。
3回2死二塁、ツインッズのカシーヤが右前に転がした打球をつかむと、イチローは本塁へ低いワンバウンド送球。これを捕手のバークが捕球し損なう。二塁走者は生還し、打者走者は一気に三塁へ。イチローの送球に「失策」が記録されたのだ。4回、同じ場面がきた。2死二塁で右前安打。ならば、ということだろう。猛然とダッシュして捕球したイチローは、捕手のミットっをめがけてノーバウンドのストライク送球。ミットが高い音を立てて球を吸い込み、今度は走者を悠々とタッチアウトにした。
チーム内に存在する野手としてのレベルの差は、イチローの悩みの一つだった。捕ってくれないのはつらいか、との問いに「聞くまでもないよね」。ただ、2度目の有無を言わさぬプレーで、少しだけ溜飲を下げたように見えた。
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(080826)
朝日朝刊
④ウシやシカ、方位磁針と同じ向き
グーグル・アースで発見/ドイツ・チェコのチーム調査
香取啓介
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哺乳類の「弟六感」は地磁気を感じる力---。ウシやシカのこんな隠れた能力が、ドイツとチェコのチームの調査で明らかになった。草をはんだり休んだりしているとき、体は方位磁石の針のように、おおむね地磁気の南北を向いている。米科学アカデミー紀要(電子版)に発表する。
ネット上で無料公開されている衛星写真「グーグル・アース」で、欧州、アフリカ、アジア、南・北アメリカ、オーストラリアの計308の牧場を調べた。草をはんだり休んだりしている計8510頭の牛を選び出し、体の向きを調べたら、多くの牛が地磁気の南北を向いていた。
チェコ国内で野生のシカ計2974頭の生態や雪に残った「寝床」の跡を調べた結果も、同様だった。シカの場合、大半が頭を地磁気の北極(磁北極)に向けていた。
ウシやシカが体を同じ方向に向けることは以前から知られていたが、風や太陽の向きの影響だと考えられていた。地磁気を感じる力は、渡り鳥やサケなどが身につけて移動に使っているが、哺乳類ではネズミの仲間やコウモリなどで報告があるだけだった。
チームは「何千年もの間、牧童や狩人が気づかなかったことに驚いている。人間も、座る向きが南北と東西とでは、脳波が明らかに異なる。こうした研究の端緒になるだろう」としている。
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(080822)
朝日朝刊
⑤食の安全/牛レバーの生食、危険伝えよ
九州大准教授〈細菌学〉・藤井 潤
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牛の生レバーやユッケなどを食べて、O157など腸管出血性大腸菌に感染する人が目立つ。きわめて危険で死亡することもあるのに、飲食店では幼児や児童、老人までもが平気で生肉を口にしている。これは、私のように細菌学を専門とする立場からは自殺行為に映る。国や自治体は十分な啓発や防止措置を講じてほしい。
厚生労働省によると、腸管出血性大腸菌が原因で07年に発生した食中毒事件は25件。このうちの10件は牛の生レバーやユッケ、焼肉料理が原因だった可能性があると判断された。06年は24件のうち17件で生レバーなどが関係していたとみられ、原因の多くを占めている。
腸管出血性大腸菌は牛の腸内に存在し、わずかな量がヒトの体内に入るだけで下痢や発熱、激しい腹痛や血便を引き起こす。幼児や老人は重症化しやすく、老人ホームなどで発症者の1割前後が死亡した例もある。
96年にレバーの生食で食中毒が発生したため、厚労省は98年に牛と馬の生食に関する衛生基準を定めた。それによれば、とちく場や食肉処理場、飲食店での肝臓処理は専用のまな板や包丁を使い、販売時は「生食用」と表示することなどとされた。
しかし、強制力はないので、多くの飲食店はいまも加熱用の肉を生で客に出している。事実、埼玉県が6月、119店の飲食店を調べた結果でも83,2%にあたる99店が「生食用」の表示がないまま肉を生で提供していた。それどころか、驚くべきことに厚労省の調査では、07年度に全国のとちく場から出荷された生食用の生レバーはゼロだった。牛レバーに限れば、市場には厚労省基準を満たす食材はそもそも存在しないことになる。
厚労省はまた、若齢者や高齢者らが生肉を口にしないようにという注意喚起をしている。しかし、ほとんどの国民はいまだレバ刺しなどの危険を認識せず、「生食用」と表示された牛肉や馬肉が存在することさえ知らないのではないか。
最近の知見では、牛の肝臓には、一定の割合で食中毒原因菌のカンピロバクターが存在することもわかってきた。厚労省は通知を出してよしとせず、特に牛レバーの危険についてより積極的に国民に周知してほしい。
衛星基準のあり方も再検討すべきであろう。多くの店で基準が守られていない以上、メニューに生食用の肉を使っていることの記載を義務づけるなど、より強い措置が必要ではないか。
私たちも、牛の生肉は時にヒトを死に至らしめることをよく認識し、飲食店は少なくとも加熱用牛レバーを生食用として提供することをやめ、消費者も口にすることを避けてほしい。
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