Aという所で弊社がアパートを保有している。
そのアパートの6室あるワンルームのうち3室が空いたのです。残り3室のうち1室は倉庫代わりに使われていて、人が住んでいるのがたった2室になったのを好機ととらえ、建物の老朽化が著しいこともあって、解体を思いついた。更地にした方が流通性が高まるのです。平たく言えば、売りやすいのです。
会社のスタッフと熟考の末、2室の明け渡しを求めることにした。住民はKさんとWさんだ。二人とも長く住んでくれている、弊社にとっては大事なお客さんだ。家賃もきちんと払ってくれている。面談した。そんな善良な住民に、突然の弊社の勝手な言い分は、大変失礼なこととは充分認識していたが、この物件を処分していくばくかの流動資金を得たかったので、お願いをした。背に腹は変えられない。
Kさんは、仕事の関係で横浜にはちょこちょこ出るので、御社に伺います、と来社していただいた。弊社の事情を説明した後、Kさんから聞く話は、強烈だった。Kさんは8年程前に、不動産屋の紹介でこのアパートを知り、いいとも悪いとも言えないうちに、誰かに荷物を運び込まれたようなのです。何が、何で、どうして、こうなったのか、記憶がない。家賃も引越し代も、不動産屋さんとの折衝の記憶もない、と言う。当時、水のろ過装置を製造販売している会社の社長だったのですが、会社は倒産して、自宅と工場は競売に付され、追い払われるように引っ越してきた。当時のKさんは、極度のウツ病状態だったようです。会社の倒産、自分の母、女房、弟が3ヶ月の間に前後して自死したそうなのです。よくぞ、持ちこたえられましたね、と感心させられた。私には、到底真似はできないだろう。その三人の骨壷もこのアパートのどこかにあるのでしょうけれども、まだ確認していないとのことでした。きっとロフトの辺りなんでしょう。ワンルームに荷物ががっちり入っているので、探そうにも探せない、そこで隣室が空いたようなので、どうせ解体まで誰も使わないようなら、要らないものをその室に移させてもらえないか、そうさせてもらえば、要るものと不要なものが区別できて、引越しの準備はできますから。私は恐縮しながら、不要なものは置いていけばいいですから、そのようにしてください、と承諾した。
それから、2週間後、今度はWさんと面談した。一階に住んでいるWさんは、精神障がいがあって、生活保護を受けながら地元の作業所で働いていると仰っていた。そこで判明したのですが、Wさんが支払っている家賃の額と私どもが受け取っている金額が違ったのです。それは私の確認ミスで弊社と契約していたのは不動産屋で、その不動産屋がWさんに転貸借していたのです。何も、その契約自体が悪いわけではないのですが、ここで、私が迂闊だったのは、この不動産屋が自分の会社の社員用にこのような契約の形態をとっていたのだと思い込んでいたのです。実は、この不動産屋は精神に障害をもち生活保護を受けている人に、又貸しをして差額を得ていたのです。転貸借していた不動産屋からは、二度とWさんとは接触しないでくれと言われた。差益を抜いていることで不動産屋を非難はしなかったが、民生委員か市の福祉課にでも相談するようにとWさんには言っておいたから、と半ば脅迫じみたことを言っておいた。私は、怒っていた。
そんなことを知ってからの会社への帰途、暗い気持ちになった。なんじゃ、あのオヤジは。その不動産屋は、お世話をしているとか、面倒みているとか言っていたけれど、その性根は弱い者いじめそのものだ。お前は弱い者にたかる銭ゲバか。
前日にも、別件、気分の悪くなる一件があって、私の神経はささくれだっていた。その上この件で、尚一層、頭の中に鉛でも入れられたかのように、頭が重たく憂鬱だった。体もだるく、重く、疲れていた。怒りだけは醒めていた。アイツは「囲い屋」だったのかもしれない。
国道から逸れて会社に近くなると、やけに桜が多く目に付いてくる。県立保土ヶ谷公園、花見台、桜ヶ丘、学園通り、ビール坂、神明社、帷子川の岸辺。もう、桜、さくら、サクラのオンパレードだ。桜の群れが、小さな山のようにも見えた。花のついた枝が放縦に伸び、花びらは幾枚も重なって、私を、私の頭を何重にも覆いかぶさる。そんな花を振り払い、除(よ)けたい衝動が走る。避けたい。今日の桜は、厚ぼったい。五月蝿(うるさ)い。桜をこんな気分で感じるのは初めてだ。昨日まで、あんなに桜を愛でていたというのに、今日のこの桜は鬱陶し過ぎる。
20100407の朝日新聞・朝刊で、「生活保護費を銀行内で集金」、「貧困ビジネス業者」のタイトルで記事になっていたのと同じことのようだ。
この記事をダイジェストした。---ーー6日は、大阪府の東大阪市の生活保護費の支給日だった。大手行支店の前には、十数人が列を作った。50代、60代の男性が目立つ。午前8時、業者2人が、支店に備え付けれている机に陣取った。現金自動支払機で引き出した保護費を、その場で業者に手渡した。大阪市西成区で、若い男に声掛けられた。誘いに応じ、業者が拠点を置く東大阪市で生活保護を申請。アパートの家賃4万円のほか、数万円を業者に手渡してきたという。この手の業者を「囲い屋」と呼ばれ、100人と契約を結んでいるとみられる。
Wさんも囲まれているのだろうか。心配だ。
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