横浜にある水産総合センターが、ウナギ(鰻)の完全養殖に世界で初めて成功したという朝日新聞の記事を読んだ。研究者の努力に敬意を表したい、またその成果を共に喜びたいと思うのだけれども、私の頭の隅っこには、そんなにしてまでと思う虫が棲んでいる。ウナギ君のことは、食材としてよりも不思議な魚としての方に私は魅了される。
そうは言っても、土用の丑どきには、みんなと同じように「土用のウナギ」を食えるものなら食いたい。それ以上は欲張らないが、一年に二度、三度位食べることができれば、もうそれはツー、ハピーだ。
マグロの上トロも、一年に一度も食えなくても、そんなに悲観しない。でも、赤身のマグロ位なら少しは頂きたい。その程度で、私の食生活は充分幸せなのだ。イワシだって、サバだって、サンマもある。美味しい魚はいっぱいある。さまざまな食材に趣向凝らして出された料理にも、関心が一向に深まらない。ただ料理人に感謝するだけで、美味いと言ってぱくぱく食する私は、無粋で無風流で面白くない奴だと言われる所以だ。でも、食材としてのモノにも、私は感謝を劣らない。
食材としてのウナギより、謎だらけで超不思議な=魚としてのウナギの方に、ウナギとしての、魚としての、生物としての大ロマンを感じるのです。わざわざ、何千キロメートルも離れた太平洋のマリアナ諸島沖で産卵し、その数cmの幼生が海流に乗って、日本の川にやってくるなんて、なんちゅう不思議なことだろう。
名古屋大学の地球環境科学専攻助教授の渡辺誠一郎さんが「うなぎと地球科学」と題して講演されたその内容をインターネットで見つけた。《注。私の方で、渡辺教授の講演の内容のうち私の関心事だけを抜き取りました。また、朝日新聞から得た名称も差し挟みました》
1991年、東大海洋研究所の白鳳丸がマリアナ諸島の西方海上で非常に小さい幼生(稚魚)を捕獲した。グアム島の近海から、北太平洋海流と黒潮を乗り継いではるばる日本までやってくることがわかった。この幼生は透明な柳の葉のかたちをしており、大きさは数センチメートル。身体のなかはほとんど海水で、海流に乗りやすいかたちといえる。このタイプの幼生には、ウミヘビやアナゴに見られる。この幼生が、海流に乗って移動してきて、生後百数十日で、細長く透明なシラスウナギ(グラスイール)に変態する。これがさらに色素が増して不透明になると初めて川を上ります。皆さんが蒲焼で食べるのは成魚(イエローイール)と呼ばれる若いウナギで、身体の側面が浅黄色をしています。親魚といわれる通常のウナギは、5年から10年かけて川で成長します。ウナギが成熟すると、目が巨大化し、頭の形も変わり、体も銀白色になります。体内でも、消化器が衰えて、生殖器が発達します。そして、故郷の海へと下ります。
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20100409
朝日・朝刊
社会
水産総合研究センターが成功
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水産総合研究センター(横浜市)は8日、人工授精で生まれたニホンウナギに卵を産ませ、孵化した幼生を育てる「完全養殖」に世界で初めて成功したと発表した。これまでは天然の稚魚(シラスウナギ)からの養殖に頼っており稚魚の資源は激減していた。安定供給の第一歩という。
センターは2002年に、養殖研究所(三重県南伊勢町)で、人工授精の卵から稚魚まで育てることに成功。今回、稚魚を全長45~70センチ程度まで成長させ、約50匹にホルモンを繰り返し投与して成熟させて人工授精し、1匹が3月26日に約25万粒の受精卵を産んだ。そのうち7割以上が孵化。4月2日からエサを食べだし、8日現在で約10万匹が生存しているという。
養殖では成魚のほとんどがオスになってしまうが、稚魚の段階で個体にホルモンを投与し、メス化することにも成功。孵化直後の幼生の死亡率が高かったが、エサを工夫するなどして成長させたという。
ニホンウナギは「かば焼き」などで人気だ。しかし、生態は謎に包まれており、養殖は河口付近で稚魚を取り、育てるしかなかった。稚魚の採取量は50年前の20分の1程度になっており、乱獲が懸念されていた。
センターは08年、太平洋マリアナ諸島沖で天然の親魚や幼生の採取に成功。現在幼生に最適なエサが分っておらず、成魚まで成長させるのに天然の倍以上の年月がかかるとされ、センターの井上潔理事は、「採取した幼生の個体に残っていたエサを分析し、量産化につなげたい」と話している。また、ホルモン投与による安全性の詳細な確認は今後行なうという。(大谷聡)
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