(衆院の解散詔書が読み上げられ、万歳する国会議員たち)
衆院が21日解散され、与野党は8月18日公示、同30日投開票の総選挙へと走り出した。麻生首相は記者会見で「安心社会実現選挙」と位置づけ、「政党の責任力」を問うとして民主党との政権担当能力の違いを訴えた。自民党は公明党と過半数維持を狙うが、支持率低下や地方選連敗で守勢を強いられている。鳩山代表が先頭に立つ民主党は、社民、国民新党と選挙協力を進め、官僚主導の政治を打破するための「政権交代選挙」と打ち出し、初の政権奪取を目指す。40日間の真夏の選挙戦が幕を開いた。(20090722、朝日朝刊、1面より)
朝日新聞と毎日新聞の社説を転載させてもらった。
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20090722
朝日・朝刊/社説
衆院解散、総選挙へ
大転換期を託す政権選択
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政権交代の予兆が強まるなかで、歴史的な総選挙の号砲が鳴った。
戦後の日本政治を率いてきた自民党政治になお期待を寄せるのか、それとも民主党に国を託すのか。そしてどんな政権であれ、失敗があればいつでも取り換え可能な新しい政治の時代を開くのか、有権者が待ちわびた選択の日がやってくる。
内も外も大転換期である。危機を乗り越え、人々に安心と自信を取り戻すために政治と政府を鍛え直す。その足場作り、つまりはこの国の統治の立て直しを誰に託すか。これが焦点だ。
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失われた20年を超えて
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それにしても、自民党に対する民意の厳しさは尋常ではない。解散までの混迷を映し出したのは、それにうろたえるばかりの政権党の姿だった。
小泉首相の郵政選挙から4年。
衆参のねじれで思うにまかせぬ国会。2代続いての政権放り出し、麻生首相の迷走と政策の説得力の乏しさ。だが何よりも、明日の暮らしと国の未来への人々の不安や危機感を受け止められない自民党政治への失望だろう。
かって日本の強みだった「一億総中流」とは似ても似つかぬ格差と貧困、雇用不安、疲弊する地方、そこに世界的な大不況がのしかかり、社会はきしみを深めている。
一番の元凶は小泉改革だと、自民党内でも批判が熱い。だが振り返れば、20年前の冷戦終結とバブル後の「失われた時代」の到来はすでに、戦後の右肩上がりの時代を率いた自民党政治の終わりを告げていたのではなかったか。「自民党を壊す」ことで自民党の延命を図った劇薬も、それなりの効用はあったが、賞味期限は短かった。
官庁縦割りの政策や予算。政官業のなれあい。行政のムダ。霞ヶ関への中央集権。温存された矛盾を何とかしなければ経済危機への対応も難しい。それを国民はひしひしと感じている。
日本が寄り添ってきた米国の一極支配はもうない。多極化した世界で、G20や米中のG2が重みを増す。中国の国民総生産は今年中に日本を追い越しそうだ。「世界第2位の経済大国」という看板は、巨大な隣国に移る。
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堂々と政権公約選挙を
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日米同盟が重要というのは結構だが、それでは世界の経済秩序、アジアの平和と繁栄、地球規模の低炭素社会化に日本はどう取り組んでいくのか、日本自身の構想と意思を示してほしい。それが多国間外交を掲げる米オナマ政権の期待でもあろう。現実的な国益判断に立って、国際協調の外交を進めるのは、そもそも日本の有権者が望むところだ。それができなければ、外交への国民の信頼は失われ、日本の国際的な存在感もますます薄れていく。
民意が今の流れのままなら、民主党政権誕生の可能性は高いだろう。確かに、政権を代えてみたいという期待は強い。だが懸念や不安もある。
民主党の言う「脱官僚」の政策決定の仕組みができれば、永田町や霞ヶ関は大変わりだろう。経済界や民間にも影響が及ぶ。混乱は最小限に抑えられるのか。この変革の先にどんな民主主義の姿を展開するのか。ばらまき政策に財源はあるのか。外交政策もあいまいなところが多すぎる。
一方の自民党が踏みとどまるには、みずからの長い政権運営の歩みを総括し、生まれ変わった「政権担当能力」を示すことだ。党内の派閥間で擬似政権交代を続けてきた時代はその必要を感じなかったろうが、これからはそうはいかない。
マニフェストづくりを急ぐ各政党に強く訴えたい。政権を選ぶ材料として、取り組む政策の優先順位を明確にしてもらいたい。
なすべきことは多く、資源と時間は限られている。公約の説得力を有権者の前で競う「マニフェスト選挙」にしなければならない。それを政権選択選挙の当たり前の前提にしたい。
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民主主義の底力を示せ
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選挙後の勢力図次第で、政局は予断を許さない。自民党内からは政党再編論が早くも聞こえてくる。自民も民主も基本的に差はない、危機には国を挙げて、という理屈だ。
しかし、政権交代しやすい小選挙区制度を導入して15年。民意が政権公約に基づく選択でそれを機能させようというところまできたのに、いきなりその選択を無にしようという発想はいただけない。複雑な大変化の時代だからこそ、選択の結果を大事にしたいというのが有権者の思いではなかろうか。
本紙の世論調査では、政権を与えた党の実績が期待はずれなら次は他の政党に、という人が6割にのぼる。政党間の不断の競争と緊張。民意によって与党にも野党にもなる。重要政策で妥協が必要ならば、開かれた国会の場を使うことだ。
有権者もこの間、多くを学んだ。一時のブームや「選挙の顔」よりも、政権公約の内容、実行の態勢、指導者の資質を堅実に判断することの大事さだ。口に苦くても必要と思えば受け入れる覚悟がいることも。
この選挙で課題がすべて解決するわけがない。だが、まずは民意の力で「よりましな政治」へかじを切る。日本の民主主義の底力を示す好機だ。
審判は秋の気配も漂い始める来月30日。2009年の長い夏、目を凝らして日本の明日を定めたい。
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20090722
毎日朝刊/社説
政権交代が最大の焦点だ
ごまかさない公約を
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衆院が21日解散された。衆院選は8月18日に公示され、同30日に投開票される。民主党を中心とする政権に交代させるのか、それでも今の自民・公明政権が続いた方がいいと考えられるのか。有権者の選択が最大の焦点となる。戦後政治の大きな転換点となる選挙戦が事実上始まった。
「昨秋解散しておけばよかった」と麻生太郎首相は後悔しているはずだ。毎日新聞の世論調査(18,19日)によると麻生内閣の支持率は17%で前月より2ポイント下落。自民党の支持率は18%で36%の民主党に大きく引き離されている。有権者の間には「一度政権を交代させてみたら」というチェンジ志向が確実に広がっていると見ないわけにはいかない。
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結束にほど遠い自民
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衆院本会議に先立ち開かれた自民党の両院議員懇談会で麻生首相は「私の発言や『ぶれた』と言われる言葉が国民に政治への不安や不信を与え、自民党の支持率低下につながったと深く反省している」と語り、記者会見でも自身の「不用意な発言」や自民党の結束の乱れを挙げて国民にも陳謝した。しかし党内は結束とはほど遠い状態で、首相が陳謝しないと収まらないところに今の追い詰められた姿が表れている。
圧勝した95年の衆院選から4年。なぜ、こんな状態に陥ったのか。
郵政民営化のみを争点に掲げ、造反者の選挙区には「刺客」候補を送って注目された前回は、報道のあり方を含め確かに問題は多かった。ただ、反対を押しのけて進もうとする当時の小泉純一郎首相に多くの有権者が「政治が変わるのでは」と期待したのは事実だろう。
ところが政治はさして変わらなかった。小泉氏は格差問題など「小泉改革の影」が表面化する中で改革の後始末をしないまま退陣。続く安倍晋三元首相は郵政造反議員を続々と復党させた。
迷走はここから始まる。小泉改革路線を進めるのか、転換するのか。自民党は今に至るまできちんと総括してこなかった。そして国民に信を問うことなく次々と首相が交代し、場当たり的な対応をしてきたことが、現在の党内混乱の要因でもある。
安倍氏は憲法改正路線に軸足を置いた。だが、その間に国民の暮らしに直結する「消えた年金」問題が深刻さを増して、07年7月の参院選で自民党は惨敗。その後、体調不良で突如辞任した。福田康夫前首相も1年で政権を投げ出した。そして、経済危機を理由に解散から逃れてきた麻生首相が今、低支持率にあえいでいる。漢字の誤読もあって「首相の資質」まで問われる有様だ。
だが、「人気がありそうだ」と首相を交代させ、その後は選んだ責任を支えようとしない自民党そのものに多くの国民は「本当に政権担当能力があるのか」と疑問を感じ始めているのではないか。今回の「麻生降ろし」に国民の支持が広がらなかったのはそのためだと思われる。
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民主に問われるもの
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一方の民主党も政権担当能力と鳩山由紀夫代表の首相候補としての資質が当然問われることになる。「政治主導」をお題目に終わらせず、強固な官僚組織を変えられるのか。税金の無駄遣いをどこまで削れるか。子ども手当てや高速道路無料化、年金制度の抜本改革は実現するのか。消費税率は4年間引き上げないというが、財源の手当てはできるのか。党としての統一感に乏しい安全保障政策はどうするのか。それらの疑問に具体的に応えるのがマニフェストだ。鳩山氏の政治資金問題もさらなる説明が必要となる。
自民、公明はこれまでの実績を強調するだろう。だが、消費税率引き上げに関し、どこまで具体的に書き込むのかなどの課題が残る。自民党には反麻生勢力が独自のマニフェストを作る動きがあるが、これは政権公約とは言わないと重ねて指摘しておく。共産党や社民党、国民新党、新党日本、今後できるかもしれない新党も含め、大切なのはこの国をどんな形にするのかだ。未来に向けたビジョンを示してもらいたい。有権者の目は一段と厳しくなっている。何よりごまかさず、正々堂々と政策論争を戦わせることだ。それがむしろ支持を集める時代なのだ。
自民党は93~94年の細川護煕、羽田孜内閣時代に一度野党に転落した。しかし、引き金になったのは自民党の分裂であり、93年7月の衆院選は非自民各党が「細川氏を首相に担ぐ連立政権を目指す」と有権者に公約して選挙を戦ったわけではない。つまり55年体制ができて以降、私たちは衆院選で有権者が投票によって選ぶという形では、政権与党と首相を交代させた経験がないのだ。
そんな選択に初めてなるのかどうか。異例の長い選挙戦になるが、いずれにしても政治の行く道を決めるのは有権者=主権者だ。こんなわくわくする選挙はないではないか。