先日、弊社が企画しているプロジェクトに融資をしてもらうため、某金融機関と打ち合わせをした。日ごろお世話になっている担当者の上席の人も同席していただいた。その上席の方が私にくれた名刺には、役職と名前、取締役「大ヶ口太郎」(おおかぐち、たろう)とあった。
あの、少し教えていただきたいのですが、「大ヶ口」の「ヶ」は漢字なのですか?
浅学で小心者の割にはずうずうしく何でも知りたがる性質(たち)でして、ぬけぬけと尋ねてみたのです、その取締役に。「ケ」は「が」とも読む。宮ヶ瀬ダムとか、相撲取りの琴ヶ嶽とか、「ケ」と書いて、「が」と読む。だから、この取締役さんの苗字の「大ヶ口」の「ケ」は、片仮名ではなさそうだ、平仮名でもない、それじゃ漢字なのかと、考えついた。漢字というよりも、漢字もどきなのか。
手許にも「ケ」があった。私が今住んでいて会社の所在地でもあるのは、保土ヶ谷区だ。ここにも、「ケ」があった。どうも、ここでの「ケ」は、どのような使われ方をしているのかを辞書に教えを求めた。大辞林(三省堂)によれば、この「ケ」は連体修飾語を表す格助詞「が」に代用している、ということらしい。それ以外にもいろいろあるようだから、下の各解説をお読みください。
そんなこんなで、今回の学習は「ケ」についてです。
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☆日本国語大辞典、小学館ではーー
け【け・ケ】《付記》=かたかなの「ケ」を、物を数える「一カ年・一コ」の「箇」に代用することがあり、近来は「一ケ・二ケ」等を、「イッケ・ニケ」等と読むようにもなった。また、「君ケ代」「越ケ谷」「八ケ岳」のように連体助詞の「が」にあてることがある。これは前例の「三ケ日」(さんがにち)等の「ケ」の転用である。これらの「ケ」は、もともと「箇」の略体「个」から出たもので、かたかなとは起源を異にするが、字型としては区別はなくなっている。
☆大野晋「大野晋の日本語相談」、朝日文庫ではーー
「ケ」という表記のもとの字は「箇」という漢字です。「箇」は、物を数えるときの助数詞として使われました。(中略)、ですから「ケ」という書き方は、すでに鎌倉時代には行われていたと見られ、これは先の「箇」の竹かんむりの最初の「ケ」だけを書いたものと判断されます。これを始めたのは多分僧侶だったろうと思います。(中略)
この用字法は便利なので、その頃から長い間にわたって広く使われてきました。そこで今度は、数量に何の関係もないところでも「が」の音をもつ地名などにも使われるようになり、「光ケ丘」「八ヶ岳」と、ヒカリガオカ、ヤツガタケなどの場合にも、がの音を表す文字として」ケ」を書くようになりました。
☆「言葉に関する問答集 総集編」文化庁編ではーー
ところで、数詞に続けて物を数えるときには、旧表記では「五ヶ所「五ヶ条」のように小さく「ヶ」と書くこともおこなわれた。また、固有名詞の場合にも「駒ケ岳」「槍ヶ岳」のように書かれる。これらは、一般には、片仮名の「ケ」を書いて「カ」または「が」とよむのだと意識されているが、本来はそうではない。この「ケ」は片仮名ではなく、漢字の「个」(箇と同字)又は「箇」のタケカンムリの一つを採ったものが符号的に用いられてきたものである。
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