2009年11月30日月曜日

昨夜は、初めての「ナイト」だった。

パラディス イン 相模原 022

「ナイト」なんて、何だか不思議な語感? 意味深? 騎士のような格好良さとはほど遠い、なんだか陰気臭さが漂う単語だけれども、そんなに心配はご無用です。弊社で経営しているバジェットホテルの深夜業務のことを話したかったのです。

「パラディス イン 相模原」。北里大学の真正面にある。相模原屈指のバジェットホテルです。ビジネスによし、家族利用によし、経済的な料金で泊まれるということで、相模原では今一番注目されているのです。楽天ジャランの「神奈川で泊まってよかった!ホテル・旅館ランキング」では、常時6,7,8位をキープしています。この初秋のランキングでは当ホテルは8位だったのですが、6位はあの有名なホテルニューグランドで、7位はあの贅沢な湘南江ノ島の料理旅館恵比寿屋でした。室の快適性と、食事、料金、スタッフのもてなしに、連日、ホテルのホームページに感謝と身に余る賞賛のお言葉をいただいています。当ホテルの運営のコンセプトを社員がよく理解しているのだと思われる。

どこのビジネスホテルも、経営には苦労しています。全国的に展開しているルートなんとかホテル、坂京インとか今までは経営磐石と言われていたホテルでさえ、取引会社への支払い期間を延ばして欲しい旨の通知を送ったり、工事代金の延払いを通告したり、この類の話題はこの業界にも事欠かない。

弊社のホテルも経営は火の車だけれども、周辺ホテルと比べると客単価にしても、部屋の稼働率にしても頑張っている方だと思う。ホテルのような装置ビジネスでは、こんな不況時には先ずは経費の削減を徹底することだ。でも、この作業はもう一通り終えてしまった。チェック項目は、光熱費の節約、食材仕入れの工夫、エレベーター・電気設備・立体駐車場の保守管理費の価額交渉、清掃・植栽・ルームメーキングを自前作業する、駐車場・リース代の削減など。

次に手をつけなくてはならないのは、スタッフの勤務シフトかなと考えていた。そんな時にホテルを担当していた小さんが退社することになったので、この私が引き継ぎをしなければならない羽目になった。

果たして私にホテルの何が解っているのだろうかと詰めて考えた。経理からは数字上の運営内容の報告は受けている。考えあぐねた結果、やっと、たどり着いたのがホテルの仕事をスタッフと同じように働いてみることだ、と。手を打つのはそれからだ。仕事の全てを理解すること、自分も全ての仕事をこなしてみること、スタッフの名前を憶えることから始めようと決心したのです。

私には不動産会社の社長としての仕事もあるので、それならば夜、働けばいいのだと思いつき、支配人に働く日と時間を指定してもらった。家人には、白いカッターシャツ、ネクタイ、革靴を用意しておくように言った。ええ、そうなんですか、と家人は意外に冷静だった。日頃、ホテルや私の会社のことを逐一話しているから、彼女はそれなりの覚悟はしているようだ。

そして金曜日(20日)、8時にホテルに入った。支配人から予約マニュアル、予約電話対応、チェックイン対応、業務チェックリスト、パラディスクラブ入会案内、飲み物の販売価格表、駐車場のご案内、手製の周辺グルメマップ、宿泊プラン、ルームナンバー及び部屋タイプ、数量、宿泊料金表などの印刷物を手渡された。胸には実習生・山岡保の名札。顔を手で撫ぜて、髭を剃ってくるのを忘れて来たことに気付いた。あんなに、髭もきちんと剃ってくるから、と支配人に大見得を切ったのに、ホテルマン失格だ。

明日(21日)は、北里大学で何学部か解らないのですが、推薦入試があって、その受験生たちの親子連れでの宿泊で、ほぼ満室状態だった。70室のうち空きは4室のみ。宿泊人数は95人。

チェックインの作業を、熟練スタッフの後ろで仕事を盗み取らなくてはと思いながら、顔には笑みを絶やさず、殊勝な面持ちで頭を下げ続けていた。そうこうしているうちに、支配人が、お客さんが立ち去ったのを見計らって私をギョッと睨んで、社長、いらっしゃいませとか、有難うございましたとか、行ってらっしゃいませとか、皆が言っているんですから、一緒に挨拶してくださいよ、と叱られた。叱られたのは当たり前だ。何よりも、挨拶。挨拶が一番。挨拶がどれだけ大事かということぐらい、この年になるまで、嫌と言う程痛感してきた筈なのに。我ながら、恥ずかしかった。

チェックイン時に、昔の宿帳にあたるアライバルカードに住所と名前を記帳してもらう。そして宿泊代をいただき、ホテル側からは領収書を発行するのですが、受験生の親に発行する領収書に「合格!北里大学」とゴム印を押して差し上げるのです。このゴム印を見て受験生と親はニンマリ微笑むのです。このホテルにアルバイトで来ている女子美術大学の学生が、毎年模様を変えて、女子美と北里大用を作ってくれている。

朝食の案内がきめ細かい。明日は、北里大学の推薦入試なので朝食は混むと思われるので、皆さんは早い目にイートインに降りてきていただいた方がいいかと思われます。イートインは1階にあるのです。どの受験生も初々しくて可愛い。目が輝いている。私は、44年前の私は、どうだったのだろうか。当時、私の頭には血がガンガン昇っていた。

昼飯用の合格弁当の予約の確認。弁当を持って行くと、昼飯時にあたふたしなくてもいいようにと予約を受けたら人気だった。モーニングコールの要望の有り無しと、有りの場合の時間の確認。

慌(あわ)ててやって来た受験生の母が、フロントで貸してもらえる時計などはありませんか、ときたもんだ。試験に時計がないと心配なんでと、母は受験生以上に困惑顔だった。今はありません、としか答えられませんがーー、探しておきますよと係りの者は答えていた。そのことを頼まれた係りの者が、何をどうするのか、様子を見ていたら、忘れ物をストックしてある段ボール箱をロッカーから引き出してきて探し出した。忘れ物のなかに時計があればと思いついたようだ。忘れ物は一定期間、預かっておくことにしている。残念ながら、時計は忘れ物の中にはなかった。そして、翌朝朝食のために降りて来られたお客さんに、支配人が日常使っている自分の腕時計を外して貸していた。私には、まだまだ物足りない支配人だけど、この時は、よくやるなあと感心させられた。こうでなくては、イカンのだ。

蕎麦枕に代えて欲しい、と来た。抱き枕を貸して欲しい。毛布や加湿器、アイロンを借りに来た。なんぜ、アイロンなんだとスタッフに聞いたら、明日の試験には面接があるので、スカートやズボンの折り目をつけるのです。なあーるほど、と納得した。ある日、受験生の女の子がブラウスを忘れてきたことがあったのです、その時は皆で手分けして買いに走ったのですが、近くでは見つからず、社員の物を貸してあげたことがあったのです、と支配人。

このホテルをよく利用してくれているお客さんが、今夜は予約していないんだけれど泊まれますか、とやってきた。ルームチャージは幾ら?と聞かれた支配人は、生憎(あいにく)今夜は、受験生の泊まりでいっぱいでして、定価の室しかないのです。この常連さんは、いつもインターネットで割引のパックを申し込んでくれている。今夜の料金には不満顔だった。でも、しょうがないか、と宿泊の手続きをとってくれた。俺たちの子供の頃は、受験といったって、一人で何所までも行ったもんだ、でも女の子なら、親はやっぱり心配だよなあ、なんて独り言を言いながら、サインした。俺は、お客さんが室に行ったのを見届けながら、支配人さん、ああいうお客さんには、こういう日でも、ちょっとぐらいまけてやればいいんじゃないの。そこが難しいところなんですよ。

20:00、昼間からの社員が、館内チェックは異常はありませんでした、と支配人に報告があった。その者も帰宅して、ホテルに残されたのはナイトの二人と実習生の私の三人だけになった。今日一日の集計をして、明日の予約受付カードを整理していた。これを、整理しておくと、明日の昼間勤務の人が楽なんですよ、と言いながら。イートインのテーブルと棚を拭いた。そして朝食コーナーに、コーヒーカップと紅茶のカップ、スプーンとホーク、ジュースと飲み水用のグラス、ジャム3種類とマーガリン、サラダをとる小皿、それらを整然と並べて、綺麗な布で覆った。パンを挟んでとるピンセットの大型のようなものは、紙でできた布巾のようなもので覆った。

それから、私は仮眠に入った。01:30~04:00。他のスタッフも仮眠するのだろうと思っていたのですが、他のスタッフは私が4時に起きてくるまで、仮眠をとっていなかった。室に入ってテレビのビデオのスイッチをいれたら、エッチな画像が出て吃驚した。後でホテルのスタッフに問題があるのではないか、俺のようなオジサンなら別に驚きはしないけれど、若い人には悪影響があるのではないのか、と問い詰めたら、3分は只なので、これを楽しみにしているお客さんもいらっしゃるんですよ、ときたもんだ。このことについては、今後何とかしなくちゃイカン課題だ。

職場に戻った。支配人から、黒いエプロンを手渡された。パントリーでは、パンを焼く準備に入っていた。早速、私も半加工された生のパンをトレイに膨れてもぶつからないように隙間をとって、並べた。そこに、支配人からダメダメの声が掛かった。私は素手で、パンを握っていたのです。ビニールの手袋をして作業をしなければならなかったのでした。

昨日、昼間勤務の人がレタスを切ってボールに入れておいてくれたものをガラスの大きな器に移して、ニンジンの細く切ったものと、缶詰入りのコーンをスプーンですくってレタスの上に振りかけた。ドレッシングは、既製のもの三種類を2セット用意した。冷蔵庫に並べておく。

コーヒーの淹れ方を教えてもらった。最初の1回目は、コーヒー豆を使わないで水だけを通すのです。水が全部落ちると、ポットの中は熱い湯が充填されたことになって、蓋をして、そのまま本番まで待機。5器用意した。

オレンジジュースは、既製の壜に入ったものを、よく振ってジュース差しに小分けした。7本用意した。お客さんの前に出す時には、このオシャモのようなもので、もう一度撹拌してから出すのです。自然のジュースなので沈殿するのです。

水は用意なんかしなくても氷を入れるだけだから、6時のイートインの営業開始と同時で十分なのです。

04:00~05:30。私以外の2人は、交互に休憩に入った。

モーニングコールの一発目は、五時半。モーニングコールを忘れたなんて、しゃれにもなりませんよね、と電話していた。コーヒーを淹れた。コーヒー豆2カップ分を濾し紙を敷いたカセットに入れて、決められた水の量を入れる、それで後は待つばかり。社長、濾し紙は1枚にしてください。気付かずに2枚重ねてしまったらしい。支配人は私の作業を厳しくチェックしていたのだ。

06:30、小鳥の囀(さえず)りのバックグランドミュージックを流した。パン、コーヒー、ジュース、水、お湯の入ったポット、サラダをセットした。朝食の始まりだ。受験生の親子がガサガサと降りてきた。お早うございます、大きな声で挨拶した。受験生諸君の健闘を祈っています。朝食券の回収、コーナーに揃えておいたジュース、コーヒー、サラダ、パンの補給、食器の片付け、テーブルの掃除。忙しく動き回るのは実に気持ちがいい。これらの作業は、どれも私には十分こなせた。

そうして、8時までの私の勤務時間は無事に終わった。

ホテルを離れる時、私は自分のことを、俺も満更(まんざら)木偶(でく)の坊ではなさそうじゃないか、まだまだ頑張れるではないか、と我ながら嬉しかった。実務には、そんなに役に立ってないかもしれないが、スタッフの仕事を今は知ることだ。業務の全てを知悉することだ。

今日、これからは、不動産屋としても頑張らなくてはならない。16号線はこの時間、大変混んでいた。早く会社に着きたいと焦る。

仕事が、これでもかこれでもかとあるのは、とっても幸せなことなんだ!!!

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