2006年10月5日(木) 朝日新聞(朝刊)・天声人語
安倍首相の考えている、美しい国とは?
アインシュタインは、ノーベル物理学賞の受賞の報を日本に向う途上に聞いた。
1922年、大正11年の晩秋に来日し、「相対性博士」として各地で大歓迎を受けた▼この訪日の時に博士が残したという言葉を先日、安倍首相が国会の演説に引用していた。「日本人が本来もっていた、個人に必要な謙虚さと質素さ、日本人の純粋で静かな心、それらのすべてを純粋に保って、忘れずにいてほしい」▼これとは別に、帰国の直前に述べた言葉がある。「地球上にもまだ日本国民のごとく・・・謙譲にしてかつ実篤の国民が存在していることを自覚した」。そして山水草木は美しく、日本家屋も自然にかない、独特の価値があるので、日本国民が「欧州感染」をしないようにと希望した▼しかしその後の日本は、欧州の列強に感染したかのように外国を侵略し、敗戦に至った。戦後は、開発で多くの美しい山水草木が失われ、昔風の日本家屋も姿を消していった▼アインシュタインの希望した「美しさ」とは逆の方に進んでしまった。こうした歴史への反省をしっかりと示さないせいか、首相の繰り返す「美しい国」は、なかなか焦点を結ばないようだ。
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