2006年8月19日 朝日 夕
窓 論説委員室より リスクを冒す
(西山良太郎)
「リスクを冒さなければ、未来は開けない。それは人生と同じだ」
サッカーの日本代表を率いるオシム監督は、初の公式戦に臨んだイエメン戦のハーフタイムで、選手にそう叫んだそうだ。敵地での試合とあって守り一辺倒で身構えるイエメンに、前半の日本は後方の守備ラインで球を回す場面ばかりが目立った。
ミスを気にするあまり、失敗の危険を自ら背負って攻めようとする選手が少ないことに、新監督は業を煮やしたのだろう。
オシム監督はサラエボで生まれた。民族対立による内戦で母国ユーゴスラビアは消え、今は分裂国家の一つボスニア・ヘルツェゴビナに姿を変えている。
監督自身、そこでは命の危険や家族が離散する苦境も味わった。サッカーを楽しめる平和の重みは身にしみている。
だから日本の選手が歯がゆい、と書くのは短略に過ぎるが、戦略や戦術だけでは強くできないと考えているのは間違いない。
監督の軌跡をたどった、「オシムの言葉」(集英社インターナショナル)にはこんな分析がでてくる。
「日本人は平均的な地位、中間に甘んじるきらいがある。受身過ぎる。(精神的に)周囲に左右されることが多い。フットボールの世界ではもっと批判に強くならなければ」
65歳の新監督が立ち向かっている相手は、戦後の日本社会の風土そのものだ。挑んでいるものの大きさには、ちょっとたじろぐものがある。
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