サッカーのワールドカップ(W杯)南アフリカ大会第4日は、14日1次リーグE組の日本(世界ランク45位)がブルームフォンテーンのフリーステート競技場で、カメルーン(世界ランク19位)と対戦し、1-0で勝った。日本は前半39分、MF松井大輔(フランス・グルノーブル)の右クロスを受けたFW本田圭祐(ロシア・CSKAモスクワ)が左足で先制ゴールを決め、そのまま逃げ切った。自国開催だった2002年以外では初勝利で、岡田武史監督は日本人監督として初めてのW杯勝利を挙げた。(20100615の朝日・朝刊より。写真も全て新聞からお借りした)
この試合、世界的なレベルからは評価がけっして高くはない。対戦国以外には、面白い試合ではなかった。が、日本にとっては、海外で行なわれたW杯では史上初めての勝ち試合だったのです。日本サッカーの輝かしい1勝目の試合だった。歴史は0から、そして1から始まるのだ。
今回のゲームでは、ことごとく岡田監督の狙い通りだった。勝因はラッキーなことを除いても、いくつもあるが、ボールをキープできてタメを作る役割を本田に託したことが大きかった、また各選手の個性を活かしての起用もことごとく功を奏したことだ。
ゲーム開始のホイッスルが鳴っても、カメルーンは立ち上がりモタモタしてくれたお陰で、日本が攻めや守りを、ゲームをしながら調整することができた。元々、フル回転できないチームだけれど、それにしても立ち上がりはモタモタ過ぎた。W杯の初戦の試合運びは、どのチームでも悩むものだが、カメルーンは大舞台の緊張感に縛られたようだ。日本にとって、このカメルーンのモタモタがラッキーだった。モタモタしている間に、先述した通り、日本は試合運びをじっくり考える時間を頂いたことになったのだ。
選手ごとに試合を振り返ってみた。
先ずは川島の起用だ。長年、楢崎や川口が正キーパーの定席だった。ワールドカップを前にした国際親善試合のお試しコースで第一キーパーに選抜された。今まで鍛えてきた能力がここで一揆に発揮、チームメイトの目を瞠った。相手のPKを阻んだのだ。これで、DF陣はぐうっと引き締まった。DF陣は、このキーパーに守ってもらった、と胸に刻んだ。控えで、黙々と練習に励んでいた若者に救われたのだ。川島がチームにインパクトを与えた。チームに活性剤を打ち込んだようだ。果敢な飛び出し、俊敏な動きがいい。一番優れているのは、「反応」だ。オランダ戦においては、中距離シュートが多いはずだ。高地におけるボールの伸びが、今まで経験がなかっただけに注意してもらいたい。オランダ戦では、ますます彼の好セーブに期待がかかる。
右、左の松井と大久保。この二人の両サイドからの切り込みでチャンスを作ることができた。大久保は、相手バックスを前にドリブルで突破を試み、相手のファウルをよび、フリーキックを得た。松井の人を食ったようなフェントにも、久々に楽しませてくれた。センターリング、角度を作っての折り返し、二人ともよかった。松井のセンターリングが何度かの失敗の末に、やっと、本田のシュートを導き出すことができた。ボールのコースが、相手守備陣の頭を越して、キーパーからも距離があった。絶好のボールを頂いた本田は期待に応えて、落ち着いてしっかり蹴ってゴールを得ることができた。ここで、テレビ解説者もアナウンサーも、本田のゴールに沸き立っていて、大久保の動きに触れていなかった。大久保の動きが相手のデフェンス二人をひきつけ、相手守備を撹乱したのです。相手守備陣の視角も邪魔をした。この大久保の動きについて、名将オシムは数日後の新聞のコラムで絶賛していた。さすが、このジジイは、本田のシュートに浮かれることなく、見るべきところをちゃんと見ているのだ。
日本のレベルでは、ボールをペナルティエリアに持ち込んだときは、複数の人間がその周辺まで詰めていなければ、ゴールは奪えない。攻撃の層を厚くするのだ。こぼれ球が、必ずこぼれてくる、それをシュートに結びつける。今回の本田のシュート時にも、ペナルティエリア付近に、遠藤、阿部、長谷川のうち何人かは迫っていなくてはならなかったのだ。その時の彼らのポジションを確認しておきたい。
長友と駒野。長友の動きは観る者に快い。日本にいる時から、岡田監督からお前にカメルーンの親分格のエトーを担当してもらうからと、早々に指示を受けていたようだ。この男になら、前もって言っても、前もって言えば言うほど、燃えるような気がする。岡田監督は彼の鍛え抜かれた運動能力や感性をお見通しなのだ。エトーは終盤、もどかしさをぶつけるように何度も感情を荒げた。エトーの視線の先には、突貫小僧の長友がいた。完璧にエトーを封じた。駒野も頑張った。金野のケガで、代役だったようだが、代役以上の頑張りを見せている。
中澤と闘莉王。高さにおける備えは、二人だけでは不十分だけれど、カメルーン戦は完全に危なげなく処理した。私は、現役時代ディフエンスをもっぱら担当していたので、自ずから守備に目が行く。この一年間、中澤と闘莉王を脅かす選手が生まれてくることを願っていた。ライバルとして刺激し合うという意味もあるが、二人のどちらかか、まさか二人ともが不幸にもケガでもしたらと思うと心配でしょうがない。この二人にディフエンスの妙を大いに発揮してもらって、次代のホープの出現を待とう。この我が儘でラテン系の男、田中マルクス闘莉王が、君が代を歌う時、肩を組もうなんて口走ったら、長谷部は先発だけでは意味がない、ベンチも、と監督に同意を求めた。日本チームに絶対不可欠な一体感だ。中澤が、闘莉王に対して、私が攻撃には行かせませんからと上がりを封じた。結果、闘莉王は前線に行きたい欲望を抑え、守備に徹した。守備に徹したことを、喜びとした。
阿部と、遠藤、長谷部の中堅陣。この三人は、前線、中盤から最終ラインまで、守りきって、相手攻撃の芽を摘み、相手ボールを強い当たりで奪い、そして攻撃にと走り続けた。このチームの心臓部分だ。阿部はアンカーの位置で守りを総括した。カメルーン戦ではうまく稼動したが、今日のオランダ戦ではここの三人の役割は重大だ。カメルーン戦の2倍は走らなくてはならないだろう。
後半、投入された岡崎、矢野、稲本はそれぞれ役目が明確で、そのように働いた。岡崎には、相手の19番(ムビア)を抑えろ。矢野には、横パスとバックパスは絶対するな。とにかく前へ。守備では前から球を追い回せと。稲本は球を拾い続けることだけを考えた。岡田監督の指示が明確で、指示を受けた者もよく理解していた。これが、大事なことなのだ。前線でFWが相手ボールを追いかけるのは、それはそれなりに意味はあるけれど、工夫した追いかけを行なわないと、疲労ばかりがかさんでくる。この工夫も一考が必要だ。今日のオランダ戦では、この前線での守備がどれだけ効果的に出来るか、いい方に期待したい。
それから本田だ。監督からの期待は、前線でタメを作ってくれることだった。キープ力があり、ボディバランスのいい本田は監督の期待に十分応えた。シュートは、サッカーを知らない人には簡単に見えるかもしれないが、あの緊張した状況の中で、落ち着いて、ボールの行き先を考えての足の甲の使い方は、さすがと褒めたい。法螺(ほら)ではない、目標を大口叩いて、逃げ場をなくし、自らを追い込んでいって実践する。試合が始まる前に、中村憲剛にゴールを決めたらベンチに走ってくるから、と言い置いて試合に臨んだようだ。彼らしくて、ほほえましい。次試合は、強敵オランダだ。本田、今度ゴール決めたときは、どうする?岡田監督がこのW杯アフリカア大会で、日本はベスト4を目指そうよと代表メンバーに言ったと聞いて、おいおいそんなこと言っちゃっていいの?と思っていたら、遠征前にこの本田は優勝を狙いますよと周囲に言っていた。この若者の言葉を、俺はまだまだ信用してない、ぞ。頑張ってくれ。
今夜はオランダ戦だ。強くて、巧くて、賢い戦士たちだ。日本はどんな戦い方をしてくれるのか、待ち遠しい。次のデンマーク戦に繋がる試合をして欲しい。私は次の戦いこそチャンスだと思っている。
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